大塚家具の顛末から見えてくるもの

後継者の学校パートナー中小企業診断士の岡部眞明です。

2015年の(株)大塚家具の事業承継を巡る騒動から3年が経とうとしています。

今年になって、当時の主役 大塚勝久氏(匠大塚会長)が、ダイヤモンドオンライン(“父娘げんか”を経て語る「事業承継ここを誤った」http://diamond.jp/articles/-/155073(以下「ダイヤモンド」))で心情を語っています。

現在、大塚久美子社長率いる大塚家具は、昨期決算(2016.1.1~2016.12.31)で46億円の営業損失を計上し、今期も赤字決算となる見込みです。一方、「大塚家具との争いにならないよう、・・・ぶつからないようにしてきた」と、古巣に配慮してきた勝久会長も苦しい戦いが続いているようです。

大塚家具は、入店時に作成する顧客ファイルによる個別対応で、新婚夫婦や新築時のまとめ買いによって売上をのばしていましたが、2001年(売上高731億円、経常利益76億円(Kabutan 、https://kabutan.jp/stock/finance?code=8186))をピークに徐々に売上を落としていきます。

(有価証券報告書から筆者作成)
(有価証券報告書から筆者作成)

2008年、勝久氏は、それまでの不良資産を整理したうえで(経常利益→当期純損失計上)、久美子氏への社長交代を決意します。久美子氏は、会員制を廃止し、カジュアル路線へ舵を切るものの、グラフにあるように業績は改善しません。そして、長男勝之氏の人事を巡り両氏は対立し、久美子氏解任、勝久社長の再登板、勝久社長解任、久美子社長再登板と皆さんご存知の顛末に至った訳です。
大塚家具が苦しむ中、ライバル「ニトリ」は順調に売上を伸ばし続け、小売業界に君臨する大企業に成長しました。

(有価証券報告書から筆者作成)
(有価証券報告書から筆者作成)

大塚家具の苦戦については「ライバルであるニトリの事業ドメインが優れていた」「商品回転率がニトリの方が短く効率が良い」「リーズナブルで統一感のある品揃えがクロスセリングを導いている」とニトリの優位性を説く

意見や「カジュアル路線はニトリとの競合に勝てなかった」「会員制の廃止で来店客が増えたが、販売員のクロージングが甘くなり、成約率が低くなった」と、大塚家具に原因を求める考えなど外野の経営学者諸氏の意見はいろいろです。

住宅着工件数の減少や少子化晩婚化など社会構造の変化、リーマンショック、消費税アップ、失われた20年といわれる経済状況がありますが、方や中国等の海外で安価な家具を製作し家具業界のSPAともいうべきニトリに対し、高・中級家具を軸とし国内メーカーの家具を販売する大塚家具や匠大塚のビジネスモデルや財務指標を比較してもあまり意味がないのです。

両社の決定的な違いは、まさに事業承継にあったのです。

大塚家の5人の子供は、「自慢の子」で、「大塚家具のために役に立つだろう」と「長女は経済、長男(匠大塚の勝之社長)は彫刻科、二女は法律、三女が芸術学部、次男が建築」を専攻、勝久氏も、「資産管理会社の株を兄弟5人で均等に」分割します。娘に社長を譲るときも、父は、不良資産を精算して引き渡しました。久美子氏も、「誰かに代わってもらえるなら、代わってほしいと思いましたよ。」と述回するほど、平穏を求める仲の良い家庭でした。ところが、父は、会社を追われ、従業員は娘の会社を去ってしまったのです。

 

これに対し、ニトリは、創業社長の父義雄氏が1989年に亡くなった際、その遺産の不動産を母みつ子氏が、現社長の昭雄氏が株式を、他の弟妹が現金を相続しました。ところが、2007年になって、昭雄氏は、相続時の遺産分割協議書は偽造だとして、母や弟たちから告訴され、(一審は昭雄氏勝訴、その後和解)兄弟は会社を去ってしまいます。

この顛末のどちらの主張が正しいのかは別にして、少なくとも株式の全てを確保した昭雄氏が、強力な意志と力をもって、ニトリという会社に対したことがうかがえます。だからこそ、強力に「SPA」路線を進められたのです。

株式を分割した大塚家具に対し、集中させたニトリ。

お金を持った久美子氏の大塚家具は、従業員を失い、販売員のクロージングの悪化で売上を落とし、勝久氏の匠大塚は資金枯渇に苦しむことになります。

一方、ニトリの昭雄社長は、家族をだましても(あくまで、みつ子氏の弁ですが)株式という権力基盤を得、今の隆盛を迎えます。

 

事業承継を考えるうえで、決定的に重要な要素がこの両社の騒動の中にあります。

①人は善意や合理的考えだけで動くものではなく、むしろ、往々にして善意から悪意が生まれ、合理性からは不合理な結末がもたらされること。

②そのような顛末を収拾、整理するためには力が必要であり、事業承継の場合は、株式がその力を与えてくれる手段であること。

③ただし、力の本当の根源は、会社を乗っ取るという強い意思の力であること。

ただし、友好的に。

後継者の学校
http://school-k.jp/

※SPA(Specialty store retailer of Private label Apparel: 企画から製造、小売までを一貫して行うアパレル業界のビジネスモデルのこと。製造小売ともいう。ユニクロが有名)

 

 

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