電通強制調査で考える

後継者の学校パートナー、中小企業診断士の岡部眞明です。

女性新入社員の自殺に端を発した長時間労働問題で大手広告会社の「電通」に強制捜査が入りました。電通では、過去にも同様の過労死の事案があったそうで、厚生労働省は度々是正勧告を行っていたにもかかわらず、今回の事件があり、電通の本社だけでなく、関西・京都・中部の3か所の支社を対象として、厚生労働省の職員90人が投入する異例の規模での強制捜査となったと報道されています。

同じ日、社長は社員に対し、業務の分散化など働き方を変える必要があるとした上で、「直面する課題を共に克服しよう」と呼びかけたそうです。これに対して、電通の社員は「業務を見直さないで残業時間だけ厳しく(管理)するから、全部単純にサービス残業分(労働)時間が増えている。」「まず、労務管理をきちんとしてください。」と、批判的な発言をしているようです。

厚生労働省を含め、ここまでの関係者の意見や発言の前提は、労働者は自分の労働力を提供し、それを時間で評価して賃金という金銭をやり取りするという考え方が前提になっているように思われます。(これを、マルクスは、労働による人間の疎外と呼びました。)

また、働き方を変えるべきだという声もあがっています。いわく、「「サービス残業」をなくし、早く仕事を終えて家族とともに過ごす時間を大切にして自分らしい生き方をすべきだ。」と。

最もなお話で、反論の余地はありません。でも、ちょっと、この点について、経済学的に見てみましょう。

まず、家族とともに(恋人とでも)幸せな時間を過ごすには、少し多めのお金があるといいですよね。そのためには、仕事でできれば、多めの給料をもらえるといいですね。

そのためには、会社ができるだけ利益(≒粗利益、付加価値)があげる必要があります。

相当大雑把の議論になりますが、その源は

「資本量(=生産のための機械や工場など)+労働量(=労働者の数や労働時間)」①

といわれていました。

しかし、今日では、資本量と労働量に加えて、全要素生産性(TFP)が生産性を増す要素であることがわかっています。さらに、その内容について、アイディア、技術革新、労働の質などが挙げられています。

特に、豊富なアイディアや労働の質などは、陳腐化しにくく、持続的な成長をもたらすものといわれています。

今回の電通の場合は、残業を多くすることで労働量を増やし付加価値を得る一方、サービス残業という形でそれに見合う賃金を支払わずに、従業員ではなく会社に利益を留保していたことになります。

①で示した、資本量と労働量で生産性を考えると会社の利益(取り分)を多くするためには労働量に対する支払いを抑えた、会社の判断は、会社の利得を多くするという意味では妥当であるように見えます。

しかし、アイディアや労働の質についての配慮がなく、社員の自殺という最悪の結果を招いてしまったのです。

アイディアや労働の質といったものは、労働を「量」で測ったり、「時間」で評価する考え方とは別の発想から生まれるものではないでしょうか。それは、まったく人間的な営みから生まれるものであり、家族や恋人と過ごす時間と同様に私たちにとって大切なものであり、社会に貢献する重要な営みなのです。電通の社員の方が、会社に求めた「労務管理」は、単にサービス残業を減らすことではなく、社員一人ひとりが会社の業務を通じて社会に積極的にかかわることを意味していることを望みたいと思います。

特に、中小企業では、資本、労働について、質・量ともに十分に確保できない現実があることは、残念ながら否定できない現実があります。

アイディアや労働の質は、コストのかからない貴重な資産になるのではないでしょうか。

経営の4要素(事業戦略、財務戦略、人事戦略、統治基盤)についてバランスよく学ぶには後継者の学校がおすすめです。

http://school-k.jp/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です