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後継者にまつわる小説あれこれ(その4)

司法書士の木村貴裕です。

小説は気軽に読めて、でも何か気づきを得たり、力がわいてくることってありますよね。

ほんの少しでも何か感じてもらえそうなものをこれから少しずつ紹介したいと思います。

後継者の学校パートナーブログですので、もちろん後継者や事業承継に関するものを。

 

後継者の学校パートナーで司法書士の木村貴裕です。

私は通勤時間をもっぱら読書にあてております。

地下鉄なので外の景色を眺めても面白くもなんともないという理由もありますが。

 

経営書ではなくあまり肩のこらない小説ばかりなのですが、結構事業承継にからむ話もあります。

後継者や後継者候補の方に何か少しでも感じてもらえるものがあればと思い、今まで読んだ中から、後継者や事業承継に関係するものを何冊か紹介します。

 

今回紹介するのは、

 

「翻訳会社「タナカ家」の災難」千梨らく 著(宝島社)

 

帯に「日本ラブストーリー大賞シリーズ」とあります。

うーん、取り上げて大丈夫なんでしょうかと、自分に問いかけております。

私は大丈夫なんですが、著者には申し訳ない。

著者の意図しない方向へ話が行くと思います。

 

社員を家族、社訓を家訓と呼ぶちょっと変わった実務翻訳会社が舞台です。

家長(もちろん社長のことです)の田中氏が亡くなったところから物語は始まります。

経営者が倒れてばたばたの承継。。。事業承継小説の王道(?)です。

 

オーナー経営者である社長には、離婚を境に幼いときに別れたままの一人息子がおりまして、彼は18歳で渡仏し10年後に帰国して(そのまた約9年後の)現在ではシェフのみならずレストランチェーン経営者としても脚光を浴びる存在になっております。

 

ちなみに主人公は、閉所恐怖症になってCAを退職した女性従業員です。

 

社長に相続人がいたことを亡くなって初めて従業員たちは知り、連絡がついたその相続人である息子は決算書等からここ数年赤字であることなどを見て会社を清算するという決断をします。

 

しかし、従業員らが懇願するので、自身が社長になり当面給料半減を含む厳しい提案を従業員全員がのむことなどを条件に会社を存続することに。

 

従業員は創業者の色に完全に染まっている、というか創業者に惹かれて集まってきた人ばかりなので、自分色に染めようと社訓から全否定するような態度の現社長に反発しながら再建を図っていきます。

 

しかし現社長は、従業員たちが漠然としか意識していなかった会社の価値をより明確にしたりして、リスクをとりながらも高付加価値化を進め、利益を生み出す会社に改革していきます。

この物語では、従業員が一つの方向を向いて、各々の役割を把握し、協力し合っていくというのも成功の大きな要素であると思います。

 

母から聞いていた話の影響もあり、父である前経営者に反発心ばかり抱いていた(従業員が心酔しているのでちょっと嫉妬も感じられる)息子も最後には、父のやりかたを多少なりとも認める心境に変化していく。

 

最後は、番頭格である従業員に経営等の全てを引き継がせる形で会社から去るので、この事業承継は結局従業員への承継ということになるのでしょうか。

 

たぶんですが、いきなりこの従業員が継いでいたら会社の存続はなかったと思われます。

 

創業者に感謝し尊敬する心は大変重要ですが、冷静に会社の分析をして、その価値を明確にし、悪い部分は切り離し、事業を再構築していくということができたから存続していくことができたと思います。

 

現実には後継者も含め内部にいる者は、冷静に会社を分析するということがなかなか難しいものです。

物語では息子が、同業他社との比較から特筆すべき価値を見つけたり、反対に危機管理のなさを指摘したりと、かなり冷静に(清算してもよいと思っているので冷淡に)分析します。

 

当たり前と思っていることに実は大きな価値があったり、その逆もしかりで、それに気づき理解し何かの行動につなげることはなかなかできることではありません。

時には外部の目を入れてゼロベースで見直すことが重要になってきます。

 

なお、帯には、

「ヘンテコな会社をめぐる、笑いあり、涙あり、翻訳ウンチクありの人情エンターテイメント!!」

とありますので、今回の紹介文は著者にとってはかなり迷惑だと思います。

 

この話が少しでも何かのきっかけになれば幸いです。

 

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